2009.09.25

飛沫感染

夕暮れ時、ショッピングセンターの前で待ち合わせをした。店内への入り口から少し離れた静かな場所。大きなガラスの向こうにはパン屋の店内が見渡せた。

人通りはあるものの、もうかなり薄暗くなり、通りはどことなく物憂げで、パン屋の白熱灯の明かりが、その薄暗さをさらに憂鬱なものにしていた。

時計を見る。まだ待ち合わせより10分近く早い。通り過ぎる人たちのファッションを眺めながら無駄に時を過ごしていた。新型インフルエンザが流行しているのかどうかはわからないが、大勢の通行人が口元にマスクをつけ足早に去っていく。

ふと振り返り、パン屋の店内を見渡してみた。

ちょうど店の中央にある展示棚のところに、幼稚園児くらいの男の子と、品定めに夢中になっている母親の姿が見えた。

男の子は、おいしそうなパンに目が釘付け状態。そろそろ夕食時だし、おなかも空いているのだろう。

母親は、子供になにか声をかけながら棚の上段のパンをとりトレーの上に載せている。

驚きの光景は、突然に始まった。子供がパンに鼻をつけるくらいの距離に達した瞬間、突然、大きなくしゃみをしたのだ。逆光の照明も手伝ってか、鼻と口から大量の飛沫が飛び出し、目の前の美味しそうなパンの上に勢いよく降り注いでいる様子がくっきりと見えた。

近くにいる母親もその様子は見ていない。遠くのレジで商品を袋詰めしている店員でさえも、その様子にはまるで気づいていない。ああ、あのパンどうなるの?

新型インフルエンザの感染爆発は、これからが本番なのか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.07.27

手を合わせる姿

部屋のカーテンを開けると、ベランダ越しに近所の公園がよく見える。

早朝。犬を連れて散歩する人。ウォーキングをする人。酔いつぶれてベンチに寝転んでいる人。まだ街灯が灯っているというのに、ここには大勢の人がやってくる。

そうした中に、あのホームレスがいた。レジ袋にアルミ缶を詰め、それを台車のようなものに山積みにし、おそらくその台車の上のものが全財産だろうと想像できそうな持ち物。黒く鈍い光を放つ衣装。公園のトイレの脇に陣をとり、昨夜からここをキャンプ地にしているようだ。この公園なら適度に明るいし、人の目もある。ふらちな若造に狙われることもないだろう。

ホームレスを云々するつもりはない。だが、かわいそうなことにこの老人はひどく衰えているようだ。寝ているのか、起きているのかは不明だが、トイレの脇に妙な格好でうずくまったままだ。

数時間後、夜も空けて室内の空気を入れ替えようと窓を開けた。あのホームレスが気になり様子を見た。まだいる。ずっと同じところに陣を構えたままだ。ちょうどその時、自転車に乗った女性がやってきて、そのホームレスに近づいて行くではないか。何をするのだろう。

ひとこと何か話しかけたあとで、女性はポケットから何かを取り出し、ホームレスにそれを手渡した。100メートル近く離れた場所から見ていても、それが何かは簡単に想像できた。女性は、さっと振り返り自転車に乗って立ち去った。ホームレスはその姿を見送りながら、両手を合わせた。
何か美しいものを目撃してしまったような、すがすがしい気分を味わうことができた。

そういえば数日前、渋谷の宇田川町で、似たような様子を見た。ホームレスは同じだが、相手が違う。外国人の青年が、ポケットから小銭入れを取り出し、何のためらいもなくホームレスに施しをする。当のホームレスも、その手の外国人が大勢いることを心得ているようで、笑顔でそれを受け取っている。

物乞いをするホームレスというのは、あまり見かけないが、外国人が大勢いる街で、ああも自然に施しをされると明るい風景になってしまうから不思議だ。

ホームレスに施しをすることが善か悪かを云々する気はない。ともあれ、たった一度も、そういう気分になったことがないということが、もっと前に横たわっている大きな問題かもしれない。

ほぼ、一昼夜、うずくまっていた公園のホームレスは、翌朝、どこかへ旅立っていった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.10.23

急展開

「もしもし、○○道の97キロポストのところから電話をしてます。ボンネットから煙が出て車が停止しました・・・・・」
「・・・・・わかりました、すぐに牽引車をそちらに向かわせますので、車を離れてガードレールの外側など、安全なところでお待ち下さい。」

駐車している車から少し離れたところに移動し、これから訪問しようとしていた相手に携帯電話で連絡を入れる。それからしばらくの間、道路を走り抜ける何台もの車を眺めていた。だが、一様にどのドライバーもこちらを見ながら通り過ぎていく。しかも、どう見ても気の毒がるような視線などではない。それどころか、おおかたが好奇の目で、中には指をさして笑う奴さえいる。とんでもないことだ。ばかやろう、こっちだって好きでこんなところに止まってるんじゃないんだ。高速で行き過ぎていくドライバーたちの視線に嫌気がさして空を眺めた。真っ青な空に秋のすじ雲がきれいに並んでいた。

青い色の牽引車でやってきた青年は、ボンネットの中を見て、「これはエンジンがいっちゃってますね」とひとこと。冷却水が何らかの理由で漏れ出してエンジンが焼け付いてしまったのだそうだ。

なるほどそういうことか、で、修理の段取りはどうなのか。恐る恐るたずねてみた。
「この年式ですし、エンジンを取り替えて30万から下手をすると50万というところですかね。どうします、これから?」
このどうしますは、どうやらどこへ運ぶのか早く考えろといっているようだ。
「この近くに修理工場はないの?」
「いえ、そういうことではなく、解体屋へ持っていくかどうかということです・・・・」
なるほどそういうことか。

「ところで、お客さん、会員証の期限が過ぎてますから、ちょっとお高いですが、運びますか?どうします?」
某自動車連盟の有難さは身にしみてわかっているのだが、それでも、そんなふうにつけこまれるとムッとしないわけでもない。期限切れにいきなり解体屋直行ねぇ、悪いことは重なるものだ。ともあれ、このまま故障車を放置するわけにもいかず、彼の提案に従うよりほかに選択の道はないようだ。

解体屋さんには、気の良さそうな青年が待ち構えていた。なぜ、こんなことになったのか。それををじっくりと理解する間もなく廃車の手続きが行われ手数料を支払う。ここまでの牽引費と合わせると、前から欲しいと思っていた最新型のデジカメが買える金額だ。

おっと、そんなことを考えている閑はない。トランクに積んだままのカメラの三脚やもろもろの道具を自宅まで送る段取りも考えなければならない。ああ、何ということだ、気に入っていたカーナビも、カーステレオもETCも取り外すことなくこの場を去らねばならないのか。それに、ここでもたもたしていると午後の大切な仕事に間に合わないことになる。ええい、みんな捨ててやる。

帰りの電車の中で、今日これまでに起きたことを振り返ってみた。なぜだ、なぜそうなるのか。事態の急展開に疲労感だけが残った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.08.01

お呼びでない来訪者

ピンポーン!! とっさに壁の時計を見上げた。午後3時、はて、この時間に誰かが訪ねてくる予定はなかったと思うが・・・。

ドアを開くと、脚立を持った老婦人が突然入り込んできた。え、脚立? 
「・・・(何者?)・・・・」
「奥さんはいないの?」
「・・・はぁ、(新手の飛び込みセールスか?)出かけてますが・・・」

家内とは、まるで古くからの知り合いのような口ぶりだが、どう考えてもこのようなタイプの知人はいないはずだ。つまり、何というか、その、オバサンタイプの・・・・。

「奥さんだと思ったら、旦那さんが出できたから驚いちゃったよ・・・」
「はぁ(悪かったな)」
そういいながら、脚立を玄関先にゴツンと置き(おいおい、そんなに乱暴な置き方をしたらシューズラックに傷がつくじゃないか)、外に重ねて置いてある紙袋のようなものを取りに行った。

さて、何を始めようというんだ。
透明の白い袋を持って再び玄関に戻ってきた老婦人は、そそくさと履物を脱いで家の中に入ろうとしている。
「あの~、いったい何をしようっていうんですか?」
「ダスキンのお取替え、ほら換気扇のフィルターだよ。」
そういって換気扇のフィルターを見せた。

え?でも、それはおかしい、だって換気扇の掃除やフィルターの交換は、ずっと前からこのオレの仕事になっているし、そんな甘っちょろいサービスはまったく不要だ。それに何より、換気扇の掃除というオレの牙城にずけずけと踏み込もうというのか。ちょっと待てよ。

「あのね~。うち、そんなサービス誰にも頼んだことないんだけどな~(このバ■ァ)」
「えっ」
老婦人は、急に我に返ったように、1秒半ほどこちらの顔を見つめ、さっと翻って外に飛び出し、ドアの脇にある表札を見た。
「あ~ら、いけない。お宅、青山さんちじゃなかったの?」
「違いますけど!!(ふざけんなこのク■■バァ)」
老婦人は、こちらに謝罪するどころか、何事もなかったように、さっさとどこかへ消えていった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.06.04

あり得ない語尾延ばし

最近ファミコンに主婦層のおばさんたちがどんどん進出している。ファミコンという言葉で、ファミリーコンピュータ関係の情報にアクセスしたいと考えていた方には申し訳ないが、ここでいいたいファミコンとは、ファミリーレストランやコンビニエンスストアという意味だ。悪しからず。

さて、このファミコンおばさんの得意技、それがあの語尾伸ばしだ。

「いらっしゃいませ~」「350円で~す。」「500円からお預かりしま~す。」「150円のお返しで~す。」「毎度有難うございま~す。」

おばかな娘でもいれば、もうおばあちゃんと呼ばれていても不思議ではないような人たちが、あの馬鹿女子高校生並みの語尾伸ばしを何のためらいもなくやっている。

何も考えていない馬鹿女子高生がやるのもかなりムッとするが、その母親といっても良さそうなオバサンが、右へならえで頭をカラッポにして「○○で~す」とやるのはいかがなものか。元々空っぽなのだから仕方がないのだろうが、あれは可笑しい。世も末だ。

語尾伸ばしが許されるのは、せいぜい幼稚園のお買い物ごっこまでだろう。それを越したら、恥と思え。

世の中、どうかなってしまったのだろうか。誰か何とかしろよ。特に政治家諸君。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.05.30

誰も決めていないが

世の中には、無言の常識のようなものがある。

たとえば携帯電話のキー操作音。おそらく携帯電話を購入した、いわゆる工場出荷状態の携帯電話ならキー操作をするたびに『ピッ』と音がでるのは普通のことだろう。

それ自体は何も問題になることはない。だが、大勢の人たちはこの無言の常識によって、このキー操作音が出ないように設定をし直している。いちいちキーを押すたびに音がしたのではうるさいし、群衆の中ではこの音が迷惑になるだろうと想像できるからだ。

ところが、このようなことを強制する法律も決まりごともない。そして、誰かがそうしろとか、そうすべきだなどと口に出していうこともない。なのにみんなそうしている。それが、いわば常識的なことがらだからだ。

梅雨時を間近に控え、ムシムシとする満員の通勤電車の車内。かなり大勢の人がいながら、ほとんど会話はない。みな無言で、苦痛に満ちた時間を少しでも快適に過ごそうとしている。

そんな中ひときは響く『ピッ、ピッ、ピッ』・・・・あの未設定の携帯電話キー操作音だ。音の主は、サラリーマンとしての定年をはるかに超えているだろうと思える爺様。メールに返信でもしているのだろう、軽快なキータッチはよいのだが、いかんせんうるさい。

「電車の中で携帯メールやるなら、キー操作音くらい切っておけよ」・・・そんな目で、音の発信源を探す人たちの数は一人ふたりではない。 誰も口にはしないが、そうすべきだろうと思えるようなことは、きっとこのほかにも沢山あるだろう。 でも、そういうことに無頓着だといじめの対象になったりもする。

明文化されていないことをはっきりと言葉で表し、関係者の全員が納得できるルールをつくるのは難しい。でも、これだけ世の中のコミュニケーションが希薄になってきた今こそ、世の中の常識やルール、決まりごとについての明確な答えが必要だと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.04.27

他人ごと

東京、田町、札の辻から赤羽橋に向かう一直線の道路を都心部に向かって走ると、真正面に東京タワーがビルの合間にすっくと立っている。

その様子を撮影しようと路肩に車を停め、三脚を立てて準備をしていたときのことだ。すぐ脇の歩道で突然若い女性が倒れこんだ。何かにつまずいて転ぶという姿は見たことはあるがそうではない。そこがレンガ張りの舗道であるかどうかということなど関係なく、そこに崩れるように寝込んだ。まさにそんな姿だった。

人通りの多いところではあるが、なぜかその様子を見ていたのは私一人だろうし、一番近くで様子を見ていたのも私だ。

カメラも三脚もそのままに、すぐさまガードレールを乗り越え、直行。肩を軽く叩いて・・・
「どうしました? 意識はありますか?」
「あ、頭が、痛くて・・・・」
そういいながら、片手で頭を抑え、立ち上がろうとしている。
「ちょっと待って、救急車を呼びましょう」
「大丈夫ですから・・・・」
道行く人たちは、様子を見ながらも他人ごとだ。

女性はゆっくりと立ち上がり、片方の頭を抑えながら苦しそうにその場を去って行く。
無理にでも引き止めて救急車を呼ぶべきかどうか迷ったが、歩けるのでと云われ見送った。

ゆっくりとだが、歩いて駅の方へ向かっている。だが、数十メートル先でまた倒れた。だが今度は、偶然通りかかったお巡りさんが近づいていった。そのお巡りさんは様子を聞き、すぐに無線でなにやら交信を始めた。これでとりあえず大丈夫だろう。

撮影を終えて、その場を立ち去ろうとした頃、遠くから救急車の音が聞こえてきた。これで、ようやく他人ごとになった気がした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.04.16

やるせないできごと

日頃から何かとお世話になっているのが公立の図書館だ。どちらかといえば、目的があって出かけるというよりは、行ってから興味のありそうな本やCDを見つけては借りてくる。そんなことを、2週間に一度、つまり借りられる期間が2週間なので、それを何度も何度も連鎖的に続けている。

図書館に行くのは土曜日の午前中。いつも利用しているのは、駅のすぐ近くにある図書館で蔵書の数も多い、それに利用者も。でも、ほとんど人たちが静かに利用しているので人の多さはあまり感じない。

書架に向かってあれこれ探しているときのことだ。「ふぁ~・・・・×△◇・・・」わけのわからない奇声を発する男が突然入り込んできた。良くみると目がうつろ。どこにでもいそうな障害を持った青年のようだ。

その青年が奇声を発しながら、走るように脇を通り抜け、書架の角を曲がってすぐ、小さな赤ちゃんが突然泣き出した。何事かと様子を見ると、男が勢い余ってそこにいた赤ちゃんを突き飛ばし、何もなかったように立ち去っていく。

すぐそばにいた母親は、男をにらみつけながらも泣く子をあやす。

障害者を悪く言うつもりはない。でも、やっと立てるようになったかどうかという年頃の赤ちゃんや、その母親の不注意を責めるわけにもいかない。事件はあまりにも突然だった。

静かな図書館に響く赤ちゃんの鳴き声、せいぜいその声が届く範囲だけだろうが、妙なやるせなさが漂った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.03.19

犯行の一部始終(続)

昨日、公園の小さな植物(植木)を盗む男の話を書いたが、この男、今朝も懲りずにまた現れた。

公園の中を自転車でのらりくらり。あれこれ物色している様子が見えた。

しめた、これでスクープ映像とばかりにビデオカメラを持ち出して犯行の一部始終を撮影しはじめた。

ところが、決定的瞬間というところで、犬を連れた人物が登場。男は、犯行を諦めて立ち去っていった。

「koen.mp4」をダウンロード

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.03.18

犯行の一部始終

今住んでいるマンションの下に、最近新しい公園が誕生した。周囲に樹木が配置され、小さな運動場や幼児向けの遊具などが配置され、中央に芝生の広場がある。昨年の暮れにオープンしてからというもの毎日大勢の人たちでにぎわっている。

窓際にPCを置いているので、外を見るとその公園が見える。仕事の合間に、その公園を眺めては目を休めている。

西の空に陽が沈み、人影も見えなくなった夕暮れ時。この公園に、自転車に乗ったひとりの老人男性が現れた。防災無線のあの情緒のかけらもない5時の音楽が流れて暫く経っている。静かな公園には、子供たちの姿もない。その男だけだ。

自転車を降りて周囲を見渡して様子を見ていた男は、ポケットから白い買い物袋のようなものを取り出した。そして、こともあろうに、公園の植え込みにある小さな植物、おそらく小ぶりの樹木だと思うが、それを両手で引き抜き、持ってきた袋に詰め込んだ。

この公園の樹木は、おそらくしっかりとした植木屋さんがあれこれこだわって植えているのだろう、様々な種類のものが上手に配置されていて、これからの季節が楽しみなのだが、それを引き抜いてしまうとは。しかも、迷うことなく目的の代物を手に入れるためには、事前の下見が必要だろう。計画的犯行であることは明らかだ。

男は、何事もなかったように白い袋を自転車のハンドルにぶら下げ、あっという間に立ち去っていった。あの植物を自宅の庭にでも植えて楽しもうというのか、何とも許しがたい犯行の一部始終だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«つのるイライラ